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#003 「老博徒は死なず、ただマークシート塗るのみ 〜札幌サイクルセンター編〜 」 (2004.2.4)

今年は正月に里帰りをしなかった私。仕事が空いた1月下旬に帰省ということで北海道へ。ちなみに私の実家は、昨秋に父親が仕事を引退したのを機に、長年住み慣れた東京を離れ、母親の実家がある札幌市に移住。わが親ながら思い切ったことをしたものだ。

それにしても寒い、寒すぎるぞ、1月の北海道! こんな時はそう、やっぱり暖かい場外だネ! というわけで、ちょうど今回の里帰り日程に偶然(あくまでも偶然だヨ)開催スケジュールが合致した小倉競輪祭で勝負すべく、毎日のように「ちょっと出かけてくるわ。帰りは夕方5時ごろ」と言い残しては札幌サイクルセンター(函館競輪場外)に向かっていたのである。そんな場外通い三日目の朝。朝食後に身支度を整えていると…

「毎日どこへ行くんだ?」
とむ「いや、ちょっと遊びに」
「こっちに女でもいるのか、んー?」
とむ「い、いや、そんな色っぽいコトじゃなくて」
「じゃ酒か? 若いモンがあんまり昼間っから飲むもんじゃないぞ」
とむ「いやいや、滅相もない(たまに飲んでるけどネ)」
「女じゃない、酒でもない…じゃ、あとはバクチしかないじゃないか」
とむ「俺は飲む打つ買うだけかい!」

「ほほう、競輪か。札幌にもあるとは知らなかった。今日はヒマだし久々に行ってみるか。つれてけ」

というわけで、連れ立って出かけることになったのである。正直気が重い。帯同者、ということならまだいいのだが、たぶん私が一生懸命「おもり」をするハメになるような。なにしろこの父上、元来気性が荒く、短気。その上、学生時代にボクシングをやっていたという腕っぷしもあり、今でも子供の頃の記憶として覚えているのは、ある晩、なにやら服装を乱して帰宅した父。

「あら、どうしたの」
「おお。電車の中で生意気な若いのがカラんできたので、降ろして殴ってきた」

というようなことが。おかげでウチの兄弟(私と弟の二人)は、反抗期やグレたりなどありませんでした。ガキをちゃんと育てるためには、親父が絶対的な権力と腕っぷしをもって君臨するのも手段ではないかと。引きこもりやヤンキーな子供をお抱えの親御さんたちはご一考ください。

とまぁ、そんな教育論で済めばいいのだが、果たして今日このお方が賭場でどのようなハプニングを巻き起こす可能性が…と考えただけでかなりコワイ。「ギャンブル場にいるオジサマは怖くない (はぁと)」「偏見排除!」などと言っている私が実の父親に対してこう考えるのもいかがなものかと思うが(苦笑)、コワイものはコワイ。まあ、トシ取ってだいぶ丸くなり、最近は油絵描いたり英会話習いに行ったりしているという変わりようだし、ここ2日間通った札幌場外の客層も首都圏の●●競輪場や×××競艇場なんかに比べれば全然良い。まぁどうにかなるだんべーと、とりあえず一緒に場外へ向かう。

行きの地下鉄の中で、渡したスポーツ新聞を見ながら色々考えているご様子。

「うぅむ、今は…全部3連単なのか?」
とむ「枠も2車単もあるよ。でも、配当が高いから3連単ばっかり売れるみたい」
「当たらないだろう、3連なんて! スジ(ラインで決まること)がそれだけ堅くなってるってことか?」
とむ「うーん、当たらないんだけど、やっぱりつい買っちゃうみたいよ、みんな」
「昔は中野(浩一)の単勝で大勝負してた奴なんかもいたがなぁ」
とむ「それって…オッズ2倍とか?」
「まぁ、単勝買う奴なんてそんなにいないしな。そいつが大量買いして1.1倍まで下がった時もあった。でも本人は取って喜んでたよ。なにしろ2連で考えるのが面倒だったらしい。バカなんだな」

と、なかなか微笑ましい昔話も聞かせてくれる。ちなみに父が競輪はじめギャンブルをぱったり止めたのは15年ほど前。理由は定かではないが「なんか面白くなくなったから」とのこと。止められなくて困っている「ギャンブル依存症」みたいな人もたくさんいるというのに…変わったお人だ。でもひょっとすると、今日の久々の参戦で、再びギャンブル熱が復活するかも。うーん、それは面白いなぁ。母親には恨まれるかもしれんが。「あの人を元に戻して!」なんて泣かれたらどうしよ(笑)。

早めに出たおかげで、土曜日とはいえどもまだ特別観覧シートが空いていたので早速入場券を購入。札幌サイクルセンターの特観、快適です。700円でゆったりのテーブルつきソファにドリンクは無料で種類も豊富。モニターもいやというほど設置されていてどこからでもストレスなく見えるし、本場の「ロイヤル特観」に近い設備。家の近くにも欲しいなぁ、こんなの。

ソファにどっかと腰を下ろし、予想紙に見入る。本日は10〜12レースが競輪祭準決勝。今回は有力どころが次々と二次予選で姿を消す大荒れ傾向になっている。今日の負け戦あたりは番組的にもその有力どころを各レースにバラして配置したため、軸不動の堅めレースが多いような…などと思考を進めていると横から、

「おい、これの塗り方教えてくれ」

あぁ、マークカードっすね。15年前はなかったもんね。こうしてこうして…と教えていると、その合間にも「ヨーロッパ(4・6・8番車)が弱いのは昔と同じか」「滝沢は今でも勝てるのか」「あの黄色い線はなんだ」「えらくスタンド客が少ないが、どっか別のところで見てるのか」などと、かなりうるさい。

とむ「競輪・この15年の変遷、というテーマで今晩飲みながら説明してあげるから」
「いや、今知りたい。じゃないと買えない」
とむ「ヒマだからついて行って見てるだけ、とか言ってたじゃん」
「目の前でやってりゃ当然買いたいだろ。何言ってんだ」

…おとっつぁん、あっさり復活しすぎ(笑)。

仕方ないのでぼちぼち説明しながら自分でも打っていると、いきなり2Rで3連単の万券(12060円)を的中!スジの逃げ&番手と別線の逃げとのボックスなのだが、自分でもせいぜい3000円台だろ、と思っていたのが、これはツケすぎ。うほうほと払い戻しを済ませ、席に戻ると、もう血眼になって研究行為をしている父。

とむ「いや、これはツケすぎだって」
「こんな前々の3人で決まって万券だろ!? こりゃやらなきゃ。俺も買うぞ」

うーむ。すごーく簡単に3連単のワナにハマっている…さすがバクチ好き。ま、こうなったら誰にも抑止不可能(笑)なので、放っておくことにしよう。なにせ年金暮らし。100円単位でちょこっとづつ打ってるみたいだし。でもそのうち「おい、ちょっとゼニ回してくれ」なんて言い出すのではないかと、ちょっと戦々恐々。

「この新聞のコメント、変だぞ。こんなの役に立つのか?」
とむ「新聞コメントは昔とそんなに変わらないと思うけど…どれどれ」

と、本日購入した予想紙『函館競輪』を見ると、並びや作戦に関する選手コメントは普通なのだが、記者による選手短評の欄(番組表の各選手欄最下段の一言寸評)に、かなりクセ…というか、ワケのわからないものが多々ある。

【1R】
有賀高士:「競争粗っぽい」(←大量落車でもありそうなんかい)
小林大介:「地元はドーム」(←いくらホームが前橋ドームとはいえ…)
山根義弘:「長州ベテラン」(←山口、でいいと思うが。なぜ旧国名?)
【2R】
中沢孝之:「近畿プリンス」(←競争になんの関係が? だいいちもう38のおっさんだし)
【3R】
長塚智広:「ワールドスケール」(←彼がナショナルチームの一員だと知らなければ意味不明)
【4R】
鈴木誠:「慈悲なき差脚」(←スズマコ…そんなに極悪人だっけ?)
松永晃典:「肉体改造して」(←して…どうなったの? どんな改造したの??)
西川親幸:「九州の人格者」(←ま、まぁ、競輪は人格も大切ですから)
【5R】
渡辺秀明:「何でも出来る」(←差すの?捲るの?それとも粘るの?)
吉岡篤志:「四国の不死鳥」(←24才で不死鳥はないだろうと)
【6R】
富永益生:「武雄山の実兄」(←確かに最近有名にはなってきましたが、ここで書かなくても)
会田正一:「フォーム奇麗」(←よく見てますねぇぇ)
【8R】
内林久徳:「ウッチー復調」(←いきなりニックネームで呼ばんでも)
桑原大志:「奇兵隊魂発揮」(←1Rの山根といい…記者さん、長州藩びいき?)
【9R】
山田裕仁:「帝王なのだが」(←去年と今回、彼に◎をつけてことごとく外しているような悔しさがうかがえますな)
【10R】
吉田敏洋:「ラクビー出身」(←だと、逃げるんすか?どうなんすか?)
【12R】
香川雄介:「しびれる脚で」(←お客がシビレるのか? 本人がシビレちゃまずいし)

…とまぁ、ツッコミ甲斐のあるコメントのオンパレード。これ読んでたら4R、買い逃しちゃいましたよ(笑)。なんというか、その昔に駄菓子屋で売っていた『点取り占い』のおもむき。一人の選手を6文字で表現する芸術、とでも申しましょうか。

あ、でも、こうして書いてみると、上記の面白コメント書かれた選手はほとんど連に絡んでいないぞ。選手も自分に書かれたコメントを読んで腰が抜けてしまったのかもしれん。それならと、9Rでぐりぐり一番人気の山田裕仁を外して買ってみたところ、あっさり捲りきって1着。今日は「やっぱり帝王」でしたね。とほほほ。

この日は全体的に大荒れで、3連単では12R中9Rが万券。うち20万円台2本、30万円台が1本と、3連単初心者の射幸心を煽るには十分すぎる配当のオンパレードで、さすがに一つも当たらなかった父ではあるものの、ただでさえおキライではない上に目の前でこの配当を見せられた日にゃもう…。漫画でいえば、目玉に「\」マーク入っている感じ(笑)。帰り道では「今度はいつやるんだ?」「春になったら函館行こうかな」などと、かなりその気になっていらっしゃいました。帰っても母ちゃんには内緒にしとけよ。

【札幌サイクルセンター・要点】
交通アクセス:地下鉄東豊線・豊水すすきの駅より徒歩1分
開催:函館開催の場外ほか、G3以上のレースのほとんどを発売。
場内:プレハブっぽい簡素な2階建てだが中は暖かく、椅子席も多い。特別観覧席(700円/47席)のコストパフォーマンス高さは特筆もの。
私見・感想:果たして札幌にどれだけの競輪人口が…?と疑問はあったが、行ってみると意外な熱気にびっくり。近々、近隣の石狩市にもミニ場外ができるそうで、北の200万都市圏はまだまだ新規客開拓の余地がありそう。
飲み食い:食堂はなく、売店に菓子・カップめんなどがあるのみ。札幌だけにラーメン店の一軒くらい欲しい気はするが。アフターレース的にはススキノの街まで徒歩6〜7分ですから何の問題もナシ。

 

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